高速伝送コネクタのSignal Integrity(SI)評価とは?
高速デジタル信号の伝送において、コネクタは信号品質を左右する極めて重要な要素です。特に PCIe Gen5 / Gen6、USB4、DisplayPort などの高速インターフェースでは、コネクタ単体のわずかな特性差が、システム全体のSignal Integrity(SI)マージンや規格適合性に直接影響します。
本記事では、コネクタのSignal Integrity(SI)評価の基礎から主要な測定手法・評価指標を整理し、当社のCABLINE®シリーズを中心として高速通信が求められるアプリケーション 向けに需要が高まっている高速伝送コネクタ評価のポイントと、I-PEXのSI Test Boardラインナップも紹介いたします。

1. Signal Integrity評価とは
Signal Integrity(シグナルインテグリティ)評価(以下SI評価)とは、高速電気信号が伝送経路(コネクタ、ケーブル、基板配線など)を通過する際に、波形やタイミングがどれだけ忠実に維持されているかを定量的に評価する技術です。USB、PCIe、HDMIなどの高速インターフェースが普及した現代では、コネクタ一つの特性が製品全体の通信品質に直結します。
コネクタ評価においては、主に以下の要因がSIを劣化させます。
- ・特性インピーダンス不整合による反射
・隣接ピン間のクロストーク(NEXT / FEXT)
・導体損失・誘電体損失によるインサーションロス
・差動ペア内スキューやコモンモード変換
高速・高密度化が進む現在、コネクタ単体のSI特性を正確に切り出して評価できるかどうかが、設計品質と開発効率を左右します。
2. 代表的な業界規格
コネクタのSI特性は、高速伝送において非常に重要であり、用途に応じて、以下の業界団体や規格で性能要件や評価方法が定義されています。
| PCI-SIG | PCI Express (Gen4 / Gen5 / Gen6) |
| USB-IF | USB4, USB Type-C |
| MIPI Alliance | D-PHY, A-PHY, C-PHY, M-PHY |
3. SI評価に必要な測定機器・治具
コネクタ評価では以下のうちVNA、フィクスチャ、De-embeddingのツールを用いるのが一般的です。
| 機器 | 主な用途 | 特徴 |
| VNA (ベクトルネットワークアナライザ) |
Sパラメータ全般の測定 | 最も基本的な SI 測定ツール |
| TDR オシロスコープ | 特性インピーダンス プロファイルの可視化 |
不連続点の位置特定に有効 |
| フィクスチャ (SI test board, Adaptor等) |
測定用のインターフェース | 製品や対象周波数に応じてカスタマイズ |
| De-embeddingツール | コネクタ単体の特性を抽出 | 評価基板や治具の影響を除去 |
| BERT (ビットエラーレートテスター) |
実信号でのエラー率測定 | 実使用環境に近い評価が可能 |
| リアルタイムオシロスコープ | アイダイアグラム、 ジッター解析 |
波形を時間領域で詳細に解析 |
特に高速伝送では、SI Test Boardの設計品質そのものが測定結果を左右します。
4. 主な測定パラメータ
| パラメータ | 説明 |
| リターンロス | 入出力ポートでの信号反射量。インピーダンス不整合の度合いを示す。反射量を示す指標。一般的に絶対値が大きい(より負の値である)ほど良好。 |
| TDR (Time Domain Reflectometry) |
時間領域で特性インピーダンス不連続を位置と大きさで把握 |
測定例: NOVASTACK® 35-HDP
| パラメータ | 説明 |
| インサーションロス | コネクタ通過時の信号損失。周波数が高いほど増大する傾向 |
| NEXT, FEXT / 近端・遠端クロストーク |
隣接ピン間のクロストーク。NEXT(近端)とFEXT(遠端)の2種類を測定 |
| アイダイアグラム | デジタル信号を重ね合わせた評価。アイ開口の大きさから信号品質や伝送マージンを評価 |
高速差動伝送向けコネクタでは、低損失・低クロストーク特性を高周波域まで安定して維持できるかが評価の鍵となります。
| 差動ペア内のスキュー | ペア内スキューとは、差動ペア内のプラスとマイナスの信号線間のタイミング差のことで、電気的な長さの不一致や不均等な伝搬遅延によって生じます |
| 伝搬遅延/ディレイ (Propagation Delay) |
信号が基板上のドライバからレシーバへ到達するまでの時間であり、高速・高密度配線におけるタイミングエラーやデータ転送エラーの主因 |
5. 高速伝送コネクタ評価におけるSI Test Boardの重要性
SI Test Boardに関して、高速・高密度コネクタを正確に評価するためには、
-
・特性インピーダンス制御された伝送線路
・低損失基板材料の選定
・De-embeddingを前提としたフィクスチャ設計
が不可欠です。
I-PEXのSI Test Boardは、高速差動伝送評価に最適化された設計により、
-
・コネクタ本来のSI特性を高い再現性で取得
・他社製品との客観的な特性比較
を可能にします。
I-PEXでは、各コネクタシリーズの特性を踏まえたSI Test Boardをラインナップしています。
細線同軸コネクタ:CABLINE®シリーズ
CABLINE®シリーズは、PCIe、USB4、DisplayPortなどの高速差動信号を細線同軸ケーブルで伝送する用途を想定したコネクタです。
注目すべきポイント
- ・インサーションロス:細線同軸ハーネスにおける高周波損失の評価
- ・差動ペア内スキュー:高速差動伝送時の伝搬遅延差確認
CABLINE®のSI Test Boardでは、実際のケーブル接続条件を意識した測定環境を再現することで、使用環境に近いSI評価を可能にします。
基板対基板(FPC)コネクタ:NOVASTACK®シリーズ
NOVASTACK®シリーズは、基板対基板(FPC)接続に用いられる高ピン数・高密度コネクタです。このシリーズのSI評価では、コネクタ単体だけでなく配線密度の影響を含めた複合的な評価が重要となります。
注目すべきポイント
- ・クロストーク(NEXT / FEXT):隣接対向ピン間干渉の評価
- ・インサーションロス:FPC接続時における高周波損失の評価
NOVASTACK®のSI Test Boardでは、高密度配線を前提とした差動配線設計により、使用環境に近いSI評価が可能です。
NOVASTACK® Series SI Test Board
FPC/FFCコネクタ:EVAFLEX®シリーズ
EVAFLEX®シリーズはFPC/FFCを用いた接続に対応するコネクタで、可動部や薄型実装が求められる機器で多く使用されます。
注目すべきポイント
- ・特性インピーダンス変動の把握:FPC/FFCの屈曲や配線構造による影響確認
- ・インサーションロス:FPC/FFC接続時における高周波損失の評価
EVAFLEX®のSI Test BoardではFPC/FFCの接続条件を考慮した配線設計により実使用環境を想定したSI評価を実現します。
RFコネクタ:MHF®シリーズ
MHF®シリーズはアンテナ接続などに用いられる高周波同軸(RF)コネクタで、RF特性に着目した評価が重要となります。
注目すべきポイント
- ・リターンロス/VSWR:使用帯域における特性確認
MHF®のSI Test Boardでは、高周波測定を前提とした基板設計により、RF用途に適した特性評価が可能です。
このように、評価対象となるコネクタシリーズに最適化されたSI Test Boardを使用することで、最適な高速伝送評価が可能となります。
6. 高速伝送コネクタ評価は「評価環境」まで含めて考える
高速伝送コネクタの性能を正しく評価するには、高速化が進むほど評価結果は評価環境の影響を受けるため、コネクタ単体の性能だけでなく、SI Test Boardや測定手法を含めた評価環境も重要です。
I-PEXでは、コネクタ設計に加え、SI Test Board・測定ノウハウを含めたトータル評価ソリューションを提供しています。評価でお困りの際は、お気軽にご相談ください。