5G対応機器設計のコネクタソリューションにおいて考慮すべき点

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5Gネットワークの拡大に伴い、対応した電子機器で使用されるコネクタにも多くの新機能が求められるようになりました。

複数の周波数帯に対応している電子機器では、内部および外部からの電磁ノイズ干渉を抑制(または防止)する必要があり、特に5Gアプリケーションには重要な課題といえます。例えばスマートフォンの場合、複数の無線通信(GPS、Wi-Fi-、セルラーSub-6やmmWave 5G)に対応するため、それぞれを調和させてお互いのアンテナなどへのノイズ問題を最小限に抑えるように設計段階から考慮する必要があります。 また、5G mmWave対応スマートフォンは、効率的なmmWave放射を可能にするよう設計されていますが、感度の高いCPUやアンテナに隣接してmmWaveアンテナモジュールを配置する場合、内部電磁ノイズ干渉問題(イントラシステムEMC問題)を引き起こす懸念があります。 このようなEMCの懸念を軽減するための対策は数多く存在します。消費者向けの5G対応機器を開発するためには、求められる性能を発揮しながら、構成部品の小型化の限界に挑戦しなければならず、性能、サイズ、コストのバランスを慎重に検討する必要があります。

小型で、シールド性のある、低価格なコネクタは、製品エンジニアがEMI対策を行ううえで最適な選択肢の1つです。

先進的な電子機器を設計する場合、先に目標とする製品性能を達成できる設計検討を行い、性能目標を達成する目途が立った後にサイズとコストの制約のバランスが取れた部品への切替えを行うことが標準的な設計手順と言えます。しかし、5G mmWave対応機器の様な電子機器では対応する周波数が増えたことにより懸念すべき項目も必然的に増加するため、EMIの問題はプロジェクトの開始時に「最初に考えるべき重要な要件」と言えます。EMIの低減対策を最初に検討することにより、開発段階におけるEMIの問題に対する「応急処置」を減らすことができるため、結果的に材料費や製造タクトなどの増加に伴う開発費の増加を抑えることができます。

一般的なRF信号の伝送方法としてマイクロストリップ基板とRFケーブルを使用するソリューションがあります(図1参照)。このソリューションは、マイクロストリップ構造の基板にRF同軸ケーブルによる接続を行います。マイクロストリップ基板の性能は、ある程度の機器設計では許容できるものであり、2枚の金属層構造によるシンプルな基板となるため基板の厚みとコストを抑えることができます。しかし、より高い周波数では、EMI放射を十分に抑制できず、性能適合評価をクリアできない可能性があります。

マイクロストリップ基板の伝送路では十分なEMI対策が達成できない場合、3層構造のストリップライン伝送構造の基板を使用する場合もあります。このような場合には、低背で高性能なストリップラインRFコネクタ(図6参照)が最適な接続方式となります。

更に高度なEMI対策を必要とするような高性能な電子機器にはSMTグランドクリップ(図3参照)の追加が有効です。 このクリップは、ケーブルシールド上のEMI誘導電流を抑制するとともに、最小限の基板スペースでケーブル配線管理を改善します。 基板レイアウトの再設計を最小限に抑えながら、EMIの発生を大幅に抑制することができる、低コストで効果的な対策と言えます。
 

検証


SMT ケーブルグランドクリップを追加したことによるシールド効果の向上は,図 4 と図 7 を比較すると一目瞭然です。
ANSYS HFSS 3D EM シミュレーションにより、以下の 4 つの条件でシールド性能をでさらに詳しく検証します。

検証条件:
条件1-1):マイクロストリップRFコネクタ接続
条件1-2):マイクロストリップ小型RF同軸コネクタにSMTケーブルグランドクリップを追加
条件2-1):ストリップライン小型RF同軸コネクタ
条件2-2):ストリップライン小型RF同軸コネクタ+SMTケーブルグランドクリップ
 

条件1-1)マイクロストリップ構造基板による伝送


マイクロストリップ RF コネクタを使用してマイクロストリップ伝送線路の条件を設定し,HFSS でシミュレーションを行いました。 図2に見られるように、マイクロストリップ構造基板では、ガイド波構造から放射が確認できます。

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図1:マイクロストリップ構造基板の断面図

 

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図2:マイクロストリップ基板にI-PEX MHF® 4L小型RF同軸コネクタを嵌合したEMIシミュレーション

 

条件1-2) マイクロストリップ小型RF同軸コネクタ接続にSMTグランドクリップを追加


RF同軸ケーブル伝送路の長さに応じてSMTグランドクリップを追加し(図3参照)、RF同軸ケーブルのシールドから基板のグランドプレーンへ干渉電流を逃がすことでEMI放射を大幅に減少させることが可能です(図4参照)。また、完全なシールドにはなりませんが、基板にグランド層を増やす必要がないため、新規基板の作成コストも抑えながらある程度のEMI対策を行うことが可能になります。

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図3:RF同軸ケーブルにI-PEX MP-A SMT グランドクリップを使用するイメージ

 

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図4: RF同軸ケーブルにI-PEX MP-A SMT グランドクリップを使用したEMIシミュレーション

 

 条件2-1):3層ストリップライン構造の基板とストリップライン小型RF同軸コネクタを併用


より高いEMI性能を求める設計では、一般的に信号導体がグランド層で完全に挟まれた構造を持つ3層ストリップライン伝送線路構造の基板(図5参照)が使用されます。またEMI性能に優れたストリップラインRFコネクタソリューション(図6参照)を使用することで優れたEMI対策を行うことができます。

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図5:3層ストリップライン構造の基板断面図
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図6:3層ストリップライン構造の基板とI-PEX MHF® 7S小型RF同軸コネクタのEMIシミュレーション

 

条件2-2):3層ストリップライン基板とストリップライン小型RF同軸コネクタにSMTグランドクリップを追加


高度なEMIシールド抑制性能を必要とする場合、3層ストリップライン基板とストリップラインRFコネクタによる接続に加えSMTグランドクリップを追加することで、更に優れたEMI対策を行うことができます。(図7参照)。

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図7:ストリップラインRFコネクタ接続にSMTグランドクリップを加えたEMIシミュレーション
(高度なEMI性能を実現)

 

結論


EMIシールド効果を向上させるために下記の4つの条件にて検証を行った結果、下記の順でEMI対策効果が改善する傾向が確認できました。

  • 条件2-2): ストリップライン小型RF同軸コネクタ+SMTケーブルグランドクリップ(図7参照)
  • 条件2-1): ストリップライン小型RF同軸コネクタ(図6参照)
  • 条件1-2): マイクロストリップ小型RF同軸コネクタ+SMTケーブルグランドクリップ(図4参照)
  • 条件1-1): マイクロストリップ小型RF同軸コネクタ(図2参照)

5G対応電子機器市場の拡大に伴い、コネクタ技術に対する性能向上の要求も日々高まりを見せています。小型RF同軸コネクタを使用した内部接続方式についても、性能、サイズ、コストのバランスを見極めながらより優れたソリューションの開発が進んでおり、5Gの発展にも貢献しています。